<鈴蘭の魅力 〜メディスンの香水、評判呼ぶ〜>

月都万象展もいよいよ後半に入り、来場者もますます増えているかに思える。
会場周辺には多くの出店が立ち並び、その縁日を思わせる雰囲気も、家族連れなどに足を運ばせる要因になっているのだろう。

今回、その中で評判となっている、一つの出店をご紹介しようと思う。

店の名は、“メディスンの香水”。
その名の通り、香水を販売しており、この手の出店では珍しい。

何の香水かというと、鈴蘭である。鈴蘭は毒を有す植物として有名であるが、同時に香水の材料にもなることはご存知だろうか。
この出店で売られている鈴蘭の香水は、通常の香水よりも香りが高く、非常に高品質なものであることで評判を呼んでいる。
女性を中心に口コミで話題が広がり、開店三日目にして香水目当てにした万象展来場者が列を成した。
今では生産が追いつかず、一日限定五十個の販売となっている。

店主は、メディスン・メランコリーさん(妖怪)。
彼女が住む鈴蘭畑の鈴蘭を香水として売ったところ、好評を呼んだという。

「スーさんの魅力にたくさんの人が気付いてくれて嬉しいです。このイベントが終わるまで、香水は売り続けるつもりです」メディスンさん談

香水の監修は、永遠亭の薬師、八意永琳さん(人間:自称)。
メディスンさんとは薬の講師の間柄であり、香水の製法を考案した。

「作ってみてびっくりした、と言うのが本音です。この香水は、通常の鈴蘭の香水よりも香り、品質が数倍高く、非常に貴重な香水であると言えます。一つのブームを呼びそうな予感がしますね」八意さん談

なお、香水の材料となる鈴蘭は、前述の通りメディスンさんが住む鈴蘭畑の鈴蘭であり、その数は有限である。
故に、香水を自分で作ってみたいという方は、鈴蘭を無断で採取することは控え、彼女にご相談を願いたい。

文々。新聞 号外 第37号

<以下、“メディスンの香水”の位置と、鈴蘭畑への地図が掲載されている>







高い空。白い雲。秋晴れの続く今日この頃。
ようやくお日様が顔を出し始めた永遠亭。月都万象展、二十四日目の午前。
その周囲の出店の連なりは、相も変わらず、騒がしくも楽しげな雰囲気を醸し出していた。

「おかあさん、おかあさん! あれ買って、あれ!」
「まだ、朝ごはん食べたばかりでしょう? もう少ししたらね」
「ぶ〜!」

その出店の中を、一組の親子連れが歩いていた。
少女は母親に食べ物をねだる。母親はそれをやんわりとなだめる。思わず頬の緩む光景。

そんな中、少女の目の前に、ふわり、と何かが舞い降りてきた。

「あ、お人形さん!」
「あら?」

二人は、突然目の前に現れたブロンドの人形に目を丸くする。
人形はしきりに両手を振り、二人をどこかに導こうとしているようだ。
人形は、ゆっくりと引かれるように、宙を浮きながら後ろに進み始めた。

その先にあったのは、まるで童話の中に出てくるようなメルヘンな店だった。アンティークな模様が壁面に塗られ、半円を連ねたような白っぽいレースが軒下に下がっている。
人形が飛び込んだ店にいたのは、やはり人形だった。二人を見てにっこりと笑う。
そして、店のテーブルの端っこにいた二体の人形が、二人に近寄って手を引いた。
見て行って欲しい、とねだるように。

「わあ、かわいい! ねぇねぇ、おかあさん、少し見てもいいでしょ?」
「そうねぇ……何を売っているのかしらね」

興味を引かれた二人は、人形に手を引かれながら店の屋根の下に立った。

「いらっしゃいませ! 鈴蘭の香水はいかがですか?」

テーブルの向こう側にいた赤い服の人形は、元気よく二人に声をかける。
そして、その上にあった小瓶を少女に差し出した。中に透明な液体が波打っている。

「ねぇねぇ、こうすい、ってなに?」

少女が母親に聞きかえす。

「いい匂いのするお水よ。栓を開けて匂いを嗅いでみてごらん」

言われるまま、少女は栓を開けて、くんくんと匂いを嗅いでみた。

「わぁ、すごくいいにおい! ねぇ、おかあさんもかいでみて?」

少女に瓶を手渡された母親も、その瓶に鼻を近づけてみた。

「あら、本当ね。とてもいい香り……」

母親の顔に笑みが浮かぶ。すかさず、人形が声をかけた。

「どうですか? 当店自慢の鈴蘭の香水です。お一ついかがですか?」
「ええ……でも、お高いんでしょう?」

母親の心配も、もっともだった。これほどの香り高い香水が、庶民が簡単に出せる金額で売られているはずがない。

「いいえ、それは売れ残りですので、よろしければタダであげます」
「え、無料ですか?」
「はい。どうですか。気に入っていただけたら、また改めて買いに来て下さいね!」
「そうですか……。じゃあ、いただくことにしますね」
「ありがとうございます! またのご来店お待ちしております!」

さっと、人形が礼をする。そして、そばにいたブロンドの人形が、店の壁に掛けてあった鈴蘭の花輪を、少女の頭にそっと載せた。

「わぁっ! ありがとう!」

満面に笑みを浮かべた少女と握手をする。
そして、親子連れは店を去っていった。少女が去るまで、ブロンドの人形はずっと手を振っていた。



「はい! これで今日も完売ね〜!」

メディスンが高らかに宣言する。テーブルは気持ちいいくらい何も残っていない。

「今日も盛況だったわね。まだ売り始めてから一時間もたってないわよ」

椅子に腰掛けていたアリスは呆れたような顔で応える。
月都万象展が始まってからすぐにお客さんが現れ、途切れる間もなく香水は売れていった。おそらく、万象展に行くよりも先に香水を求めに来たのだろう。

「でも、アリス。さっきの試供品の香水、売らなくてよかったの? 今回初めて出してみたけど、使って行く人なんてほとんどいなかったじゃない」

先程の親子連れに渡した香水は、客がどんな香水が確かめる用に置いてあったものだった。
しかし、そういった客はあまりおらず、ほとんどほったらかしのままで置かれてあった。

「いいのよ、“試供品”だもの。売り物として出したわけじゃないし、第一、あれは数回とはいえ、誰かが先に使ったものなのよ。それを売るわけにはいかないわ」
「ふ〜ん」
「それに、試供品は宣伝の意味があるの。物を売る人たちにとって、宣伝や広告はすごく大事なのよ。売っていることを知らせないと、誰も買いに来てくれないしね」
「あ、だから、アリスはあの天狗の新聞記者に宣伝してもらうようにしたのね」
「そうよ。……でも、いまの状態を見る限り、宣伝してもらう必要はなさそうだけどね。もう大分噂になっているみたいよ」
「ふふ〜ん、やっぱりスーさんの力は偉大ね! いまさらそれに気付くなんて、遅いのもいいところだわ!」

得意げに胸を張るメディスン。しかし、正直アリスはここまで売れるとは思っていなかった。一つ二つ売れることで、メディスンの喜ぶ顔が見られればそれでよかったのだ。
いまや、“メディスンの香水”は万象展のちょっとした顔となっている。香水を監修した永琳も、売店で香水を売ろうかどうか検討しているとのことだ。救護室はよっぽど暇らしい。

「それじゃあ、永琳のところに行って、明日の分の香水を作ろう。時間がかかるから、早く作らないと間に合わないわ」
「そうねぇ……じゃあ、そうしましょうか。このまま待ってても意味もないしね。メディスン、売り切れの看板出しておいてね」
「うん、分かった」

二人は早くも店じまいの準備をし始める。メディスンは、テーブルの下においてあった“本日分は売り切れました”の看板をテーブルの上に、

「あら、もう売り切れなのかしら?」

置こうとしたが、その前に声がかかった。
声の発せられた位置からすると、メディスンと同じくらいの背格好、かなり小さい少女のようだった。

「あ、ごめんなさい。さっき、ちょうど売り切れちゃったの」
「あら、困りましたわね。かなり早く来たつもりだったのですが……いかがいたしますか?」

と、今度は上の方から声が聞こえた。
ひらひらしたスカートにレースの髪飾り、大きめの日傘を持った若い女性だった。

「もう、わざわざ足を運んだっていうのに。とんだ無駄足だったわ」
「ですから、私どもに任せていただければよかったのですよ」
「私は香水は自分で品定めして買うの。貴方たちに任せておけないわ」

何だかテーブルの方が騒がしかったので、アリスは片づけをやめてそちらの方を向いた。
そして、凍った。

「れ、レミリア、スカーレット?」

淡いピンクの服に帽子、背中から突き出した蝙蝠の翼。どこからどう見ても、あの不夜城、紅魔館の主、レミリア・スカーレット本人だった。
お供には、従者である十六夜咲夜を連れている。あの二人が一体何の用だというのか。

「ん? あら、お久しぶりね。魔女から屋台手伝いに職変えかしら?」

アリスに気付いた咲夜が声をかけた。アリスは、なんとなく緊張しながらそちらに足を向ける。

「そんなわけないでしょ。ただの手伝いよ」
「そうね。ちょっと言ってみただけよ」
「あなたこそ、こんな所に何の用かしら。こんな真昼間に、日に弱いご主人連れて」

微妙に皮肉った口調で咲夜に言葉を返したが、応えたのはレミリアだった。

「ここの香水がすごくいい品だって聞いてね。それで足を運んでみたのさ。もう売り切れたなんて、よっぽど人気があるんだね」
「ええ、まあ、おかげさまで」
「? アリスのお友達?」

メディスンが、三人の顔を交互に見ながら問う。

「まあ、お友達というか知り合いね。レミリア・スカーレット、って知らない?」
「? ううん、知らない」
「あら。あなた最近生まれた妖怪なのね? それとも、私はそれほど知られていないのかな?」
「そんなことはございませんよ。お嬢様の名前は幻想郷中に届いていますから」

少し不満げなレミリアをなだめる咲夜。

「では、話を戻しますわね。ここの香水を求めに来たんだけど、一本くらい余っていたりしないのかしら?」
「ごめんなさい。私たちが売っている香水ってたくさん出来ないの。だから、一日に五十本しか売れなくて」
「それはまた、希少だね。私が寝るくらいに並んでいないと買えないのかしらね」

確かに、そのくらいに永遠亭の入り口に張り付いていれば買えるだろう。

「いかがいたしますか? それほど高価なものではないようですし、やはり私が買いに……」
「さっきも言ったでしょう。香水は、まず私が品定めする。咲夜に買いに行かせるのはそれからよ」
「ああ、じゃあ、私が持ってる物を見てみる? もう、何回か使ってしまってる物だけど」

そう言うと、アリスはスカートのポケットの中から小瓶を取り出した。

「はい、ちょっと試してみるくらいなら構わないでしょ?」
「ふむ。じゃ、少し使わせていただくわ」

アリスから小瓶を受け取ると、レミリアは瓶の栓を抜き、左の手首に一滴、香水を垂らした。
そして、右の手首で香水を延ばすと、鼻に近づけて匂いをかいだ。

「……む」

レミリアの顔色が変わった。先程まで浮かべていた余裕のある表情を崩し、真剣なものになっていた。

「どうなさいました? お嬢様」

その変化を敏感に感じ取った咲夜は、レミリアに声をかける。
レミリアは何も言わず、瓶を咲夜に渡した。そして、咲夜もレミリアと同じように香水を試してみる。

「まあ、これは……」

咲夜の頬が、少しばかり緩んだ。明らかに気に入っている様子だ。

「お嬢様、噂はどうやら本当だったようですね」
「……確かに。これは、私が持っているコレクションの中で十本の指に入るわ。鈴蘭の香水はあまり好きではなかったけど、これだけは別格ね。芳醇で繊細。その内に秘めた優しさ。とても柔らかい、良い香りだわ」
「本当!? ありがとう!」

レミリアの賛辞を聞いたメディスンが喜色満面にお礼を言う。

「咲夜、紙とペンを」

レミリアに命じられた咲夜は即座にメモ用紙と羽根ペン、そしてインクを用意した。……見えなかった。一体どこから。
レミリアはその紙にさらさらと流れるように文字を書き連ねていく。そして、最後に自分のサインを入れ、メディスンに渡した。

「紅魔館当主、レミリア・スカーレットの名で注文するわ。数量は十。明日中に紅魔館まで届けて頂戴。門番には、来たら通すように伝えておくから」

そう伝えると、やるべきことはやったという風に踵を返すレミリアお嬢様。

「それでは、お願いしますね。私たちはこれで失礼しますわ」

咲夜は軽く頭を下げると、レミリアの後について歩き出した。

「……」

なんというか……あまりの唐突な行動にどう反応したらいいのか分からない。
分からないのだが、これはなかなか凄いことなのではなかろうか。

「よ、良かったわね、メディスン。紅魔館の当主から認められたわよ」
「え、あ、うん。でも、それって凄いことなの?」
「紅魔館は好事家の筆頭みたいなところだからね。そこの当主に認められたってことは、その香水が世間的に認められたってことなのよ」
「う〜ん、よく分からないけど、まあ、注文を受けたからには届けなくちゃね! そうでしょ?」
「うん、そうね。さ、忙しくなりそうよ。十個余計に作らなきゃならないからね」

アリスとメディスンは再び片づけを開始した。
香水を作るのは一日がかりだ。永琳が手伝ってくれるとはいえ、まだ量産体制が整っていない。時間との勝負だった。

「随分と盛況みたいじゃないか。もう、売り切れか?」

と、テーブル越しに声がした。またしても買い損なった客が来たようだ。

「あ、ごめんなさい。今日はも、」
「……………………」

アリスとメディスンは動きを止めた。止めざるを得なかった。
なぜなら、そこに途方もなく変な奴がいたから。

そいつの特徴を、とりあえず列記してみよう。
まず、サングラスをしていた。横から見ても目が見えないほどの分厚いサングラスだった。
そして、包帯を巻いていた。腕とか足とかではない。顔面に、顔の一部分さえ見せまいとするかのようにぐるぐる巻きにされていた。
最後に、帽子をかぶっていた。魔法使いがよくかぶっているような帽子。黒くて、内側に白いフリルがついていた。

「……………………なにしてるの、魔理沙」

アリスはその変な奴の名を呼んだ。見分けがついたのは、最後の帽子があったからだ。あれがなかったら、完全に月○仮面と間違えていた。

「ふっ、何してるのとはご挨拶だな、アリス。それはこっちの台詞だぜ」

月○仮面が口を聞いた。口の辺りの包帯が、もごもごとうごめく様が気持ち悪い。

「あなた、よくその格好でここまで入ってこられたわね。警備に止められなかったの?」
「警備が厚いのは中だけだ。ここはそれほどでもない」
「あ、そういうこと」

というか、警備が薄いとしても、こんな不審人物を中に入れるとは、警備の程度が知れるのではないだろうか。

「まあ、いいわ。で、何のようなの?」
「……ほっほう……どの口がそんな台詞を言っていらっしゃるのでございますかな?」
「あなた日本語おかしいわよ」
「アリス。お前、何しにこのイベントに来たのか、もう忘れたのか。忘れたとは言わさんぞ」
「何しに? ………………………………………………………………………………あ」

ぽん、とアリスは手を打った。

「え、ええと、忘れてたわけじゃないのよ? ただ、この出店のほうが忙しくて、」
「私はなぁ……この三週間ちょっとの間、ずぅーーーっとお前の報告を待ってたんだぞ。いつ来るのかなぁ、いつ来るのかなぁ、と待ち焦がれるように待ってたんだ。それがなんだ。昨日の天狗の新聞に載ってた写真に、こんな店の手伝いをしているお前を見つけたときは目を疑ったね。ついでにお前の頭も疑った。こいつはこんな所で何をしているのかと。アホかと。バカかと。私が頼んだことすっぽかして、何いけしゃあしゃあとお店の手伝いしばいちゃってるのかと。どうだ、私の気持ちが分かるか? あの裏切られた気分を想像することが出来るのか? 私はなぁ……楽しみだったんだ。いつここに忍び込めるかと、カレンダーを見ながらわくわくしながら待ってたんだ。それを一日、一日、お前の報告が来ないたびに日付に×をつけていく気持ちがお前に分かるというのか。申し開きがあるなら言ってみろ。私も鬼じゃない。最後にお前の懺悔くらい聞いてやる仏心を持っている。さあ、さあ、言ってみろ。言ってみろ、このやろう」

月○仮面は泣いているようだった。

「え、ええと……」

その姿が、あまりに哀れで、

「……ごめんなさい」

アリスは謝ることしか出来なかった。

「ね、ねぇ、そんなにいじめないであげて。アリスも悪気があって忘れてたわけじゃな」
「お前だ。お前がアリスをダメにした」
「へ?」
「お前がいなかったら、私の計画が狂うことはなかった。今頃ワイングラス片手に蓬莱の玉の枝を眺めていたに違いないんだ。そうだ、お前だ。お前が全て台無しにした。お前にも責任を追及しなければな」
「そ、そんな……」
「やめてっ、メディスンは何の罪もないわ。悪いのは私だけなの。だから、メディスンは見逃してあげてっ」
「アリスっ、そんな、私があなたを引き止めさえしなければ、こんなことにはならなかったんじゃない……! だから、悪いのは私なのよっ!」
「メディスンっ!」
「アリスっ!」
「……」

二人が目じりに涙を浮かべながら、ひしと抱き合っている様を、月○仮面は見つめていた。
何故だか知らないが、完全に自分が悪者になっていた。なんかの取立てだろうか、これは。
心なしか、後ろの方からひそひそと話し声が聞こえるし。泣きたいのは自分だと、被害者は自分だと心の中で切に訴えていた。

「……よし、もういいか?」
「えっ、許してくれるの?」
「許さん。だが、このままだと話が進まん。とりあえず、この件は置いといて、話を先に進めよう」

そう言うと、月○仮面、もとい魔理沙は屋台の中に入ってきた。
二人は居住まいを正した。迷惑をかけたので、誠意を見せるためにも。

「……で? お前に頼んでおいた万象展の内部念写、どのくらい撮れた?」
「……」
「一枚も取れてないんだな?」
「ごめんなさい」

アリスは項垂れた。魔理沙は、はあ、とため息をつく。

「あー、どうしたもんかな。もう綿密に調べてる時間もないし。これは強行突破しかないか」
「ち、地図なら描けると思うわよ?」
「まあ、そのくらいはしてもらわないとな。こんだけ待たせておいて」

アリスはただ従うしかない。すっかり忘れていたのは自分なのだから。いま思うと、適当にやろうと思っていた頃から忘れかけていたのかもしれないが。

「ねぇ、どうしてアリスは怒られてるの。というか、魔理沙、だったわよね、魔理沙は何をしようとしているの?」

メディスンが当然の疑問を口にする。
アリスは周囲を気にしながら、声をひそめて答えた。

「ええとね……実は、私はこの万象展をスパイしに来たの。ここに展示されている蓬莱の玉の枝っていう展示物を、この魔理沙が盗み出すためにね」
「えっ、それって、悪いことじゃないの?」
「悪いことじゃない。悪いことだと決めるのは、私だからな」

超自己中な意見を横から出す魔理沙。

「本当は、この念写人形を使って、永遠亭の中を写していくはずだったのよ。でも、私がそれをすっかり忘れていてね」

メディスンが抱いているブロンドの念写人形。屋台をやっている間、すっかりメディスンが気に入ってしまったのだ。

「いまからでも遅くない?」

魔理沙に尋ねる。

「無いよりはあったほうがいいが……もう、そんな段階じゃないな。手っ取り早く内情を知るような手段はないか?」
「手っ取り早く、か」

手っ取り早く万象展の状態を知る方法。
そんな便利な手段が、

「まあ、ないこともないんだけど……」

一つだけ、アリスには浮かんでいた。失敗を取り戻そうと頭の片隅で考えを巡らせていた結果だった。
ただ、それをするのは、少しだけ罪の意識があった。







「はい、お待ちどうさま。鮎の塩焼き定食、二人前ですね」
「ありがとう」

兎の店員が、膳に載せられた料理を運んできた。
ほかほかのご飯と、輪っかの麩が浮いた味噌汁、大根おろしの付け合せのついた鮎の塩焼きはこの上なく美味しそうだった。

正午。永遠亭食堂内、十五番座敷。

ちょうど昼飯時とあって、永遠亭の食堂内は活気に満ちている。
味と量が申し分ないとあって、ここの食事を目当てに訪れるリピーターも多いという。

「いや、久しぶりだね。同じ所で働いていたのに、少しおかしいが」
「ええ、そうね」

そんな食堂の中で、アリスは万象展の初日に会った、上白沢慧音と向かい合っていた。

「さあ、食べようか。話は食べながらでも出来るだろうしね」
「そうね」

早速箸を味噌汁につける。慧音の顔には不信がる様子は微塵も見られない。
ほとんど直感だったが、慧音は実直で、嘘のつけないタイプだ。何か心に不安やらなんかを抱えていると、顔に出る。
いまの様子を見ると、アリスがどんな腹積もりで慧音を食事に誘ったか、想像する余地もないだろう。

「うん、うまい。ここの料理はいつも美味しい。しかも、タダで食べられるとあっては至れり尽くせりだ」
「へ〜、ここで働いていると、タダになるのね。私もあやかりたいものだわ」
「ふふ、それなら永琳辺りにでも相談してみるといい。何か空いている役職があるかもしれないからね」

慧音は笑みを浮かべながら、鮎の腹に箸を突っ込んでいる。
好物なのだろうか。

「最近の仕事具合はどう? やっぱり大変?」

さりげなく、アリスは切り出す。

「う〜ん、最初のうちは大変だったが、今では楽しくなったかな。自分の知っている事を話すのは楽しいものだからね」
「一体、一日にどのくらいの人数のガイドをしているの?」
「大体四、五組程度かな? それを一時間かけて丁寧に説明する。蓬莱の玉の枝も含めてね」
「はあ、大変でしょう。全くの無知の人に物を教えるのは」
「いや、むしろ楽しい。どうやって、その人に理解させるかを考え、そして、その人が理解を顔に浮かべた時。それが一番報われたと思う瞬間だね。だから、私は教師みたいなことを村でやっているのかもしれない」

慧音は初日にアリスと回ったとき、そのガイドの姿勢が永琳の目に留まり、緊急で万象展専属のガイドにされてしまったのだ。 
いまは永遠亭に寝泊りして、色々とガイドに必要な知識を溜め込んでいると聞く。だから、アリスにとって、不信がられずに万象展の内部を知るのに一番重要な人物であった。
アリスはそこをうまく聞きだす役目を担っている。今度こそ、失敗は出来ない。あの包帯バカにまたバカにされる。

アリスは話題を変えた。

「警備のほうはどうなの? いまの所、蓬莱の玉の枝とか、展示物を狙っている輩はいないわけ?」
「いまの所はね。警備を増強した成果が出ているようだ。だけど、安心できない。夜はやっぱり警備が薄くなるし、警備から巡回に切り替わるから必ず死角が出来る。そこが問題だね」

いい情報を得られた。やはり、夜は警備が手薄になるらしい。警備から巡回に切り替わる、という所も聞き逃せない。

「でも、驚いたことに、蓬莱の玉の枝の周辺は、二十四時間体制で見張っているらしいよ。だから、ねずみ一匹入って来られないような状態だね。さすがに国宝級ともなると、そのくらいしないと盗まれてしまうかな」
「はあ、なるほどね〜」

そ知らぬ顔で味噌汁をすするアリス。しかし、内心は少し動揺していた。
さすがに、国宝級というお宝は警備が厳重にされているようだ。
うろ覚えだが、アリスがあの部屋に初めて入ったとき、八畳間のあんなに狭い部屋だったくせに、警備の者は二人もいた。
それが見張っているお宝を、簡単には盗み出すことは出来ない。やはり、作戦が必要だ。

「アリスさんのほうはどうだい? なにやら出店で香水を売っていると聞いたが」
「え、ああ、まあ、実は。売っているのは、友達の人形なんだけどね」
「友達の人形?」
「今度紹介するわ。とてもいい子だから。ちょっと世間知らずなところもあるから、そこはちゃんと先生が指導してあげてね」
「む、そうなのか。それはちょっと腕がなるな」

慧音はアリスの冗談に笑みで返す。
同時に、アリスは他に有益な情報を聞き出せるかを思案する。他に、何か……。

「あ、そう言えば、ここの兎ってどのくらいいるのかしらね。前々から気になっていたんだけど、これだけの数、数え切れないわ。ご存知?」
「う〜む、私が把握しているのは大体五十羽くらいだね。もっとも、裏方を含めるとその倍はいるんじゃないかな」
「……というと、ここの食堂や売店に五十、警備に五十って言うのが妥当なのかしら」
「いや、今回は警備に力を入れているから、おそらく三対七といったところだろう。中にいると、さすがに物々しさが伝わってくるよ」

ふむ、これもいい情報だ。慧音自身が感じていることなら信憑性が高い。永遠亭内部の警備はかなり厚いと思っていいだろう。

「慧音さんって、いつも何時に寝るの? というか、ここでどうやって生活しているの。少し興味あるんだけど」
「何のことはない。仕事が終わったら、ここで食事、風呂に入って、当てがわれた部屋で本を読みながら過ごす。それで就寝だ」
「なんだ。ここの兎と遊んだりはしないのね」
「彼女たちは忙しいからね。私のように、老人や好事家たちと話しているだけの楽な仕事ではないのさ。万象展もそろそろ終わりに近づいているし、疲れもピークなんじゃないかな」

疲れもピークに達している。それは、集中力が散漫になっている、若しくは刺激がなくて慣れきってしまっている、ということだ。そこを急に強襲したら、結構な混乱の渦になるかもしれない。
いや、隠密で、ささっと仕事を片付ける事も出来るかもしれない。付け込む隙は十分ある。

「なるほどね〜。分かったわ。あ、そろそろ私食べ終わるけど、先に立っていいかしら」
「ああ、どうぞ。すまないね、食べるのが遅くて。勘定は、前付き合ってくれたお礼に、私が払うから」
「ああ、ありがとう。じゃあ、ごゆっくり。これから、私も忙しくなりそうだから」

最後にそんな台詞と残しながら、アリスは食堂を後にした。







「ふむ、よくやった。予想以上の成果だ」

えらそうに魔理沙はアリスを褒めた。
永遠亭から魔法の森の霧雨邸に戻ってきたアリスは、慧音から聞いた話をつぶさに魔理沙に話した。
いまはメディスンも一緒にいる。永遠亭で香水を作っていたらどうか、とアリスは言ったのだが、こっちの方が面白そうという理由でくっついてきたのだ。

「で? これからどうするわけ?」
「今夜仕掛ける」
「こ、今夜?」

それはさすがに早いのではないか。

「もっと作戦を練ったりしなくて大丈夫なの? 失敗したら、今度は出禁程度じゃ済まないかもしれないわよ?」
「もう待っていられる余裕がない。というか、私が早く突撃したくてしょうがない。誰かさんのせいで一週間遅れたからな」

アリスはそ知らぬ顔で薄い紅茶を飲んだ。

「ふむ、お前の話からすると、あそこの警備はいつからか知らんが、警備から巡回に切り替わる時間があるということだな。まあ、おそらく、万象展が終わった後、夜中ならすでに切り替わっていると見ていいだろう」
「まあ、そうかもね」
「ということは、中に忍び込むのは、たやすそうだな。問題は、蓬莱の玉の枝の部屋の警備か」

あの八畳の部屋に二人の警備が二十四時間常備。しかも、アリスの見立てでは、蓬莱の玉の枝を覆っていたあの正方形のガラス、あれには術がかけてある。おそらく、動かしたりすると警報か何かが作動し、警備の者に知らせる作りになっているのだろう。

「ということはだ。今日の夜中にうまく永遠亭に忍び込み、蓬莱の玉の枝のある部屋まで移動。そこにいる警備のやつらを叩きのめして、お宝をゲットしてくれば万事解決か」
「ガラスに掛けられた術はどうするのよ。警報じゃなくて、侵入者用のトラップかもしれないわよ」
「そんなの、その場で試してみればいいじゃないか。こっちには三人いるんだ。一人がやられても、二人がそいつを担いで逃げればいいだけだ」
「三人?」

アリスの目が、人形と遊んでいたメディスンのほうを向いた。

「……ほぇ?」
「ちょっと……メディスンまで連れて行くつもり? 私は借りがあるからいいとして、メディスンを犯罪に加担させるわけにはいかないわ」
「ここまで聞いちまったんなら、共犯と同じだろ。嫌だったら、口封じだな」
「……」

物騒な言葉が飛び出した。
アリスはメディスンの方に向き直り、真意を聞いてみることにする。

「メディスン、嫌だったらいいわよ。これから永遠亭に忍び込むことになるけど、あなたはどうしたい?」
「んー?」
「魔理沙はこんなこと言ってるけど、本当に命まで取るつもりはないから。私が責任持って守ってあげる。だから、無理しなくていいわよ」

メディスンはちょっと上を向いて考えた後、

「ううん、私はアリスと一緒に行く」

と、軽い調子で答えを出した。

「ほ、本当にいいわけ? あそこの薬師にはお世話になっているそうじゃない。恩を仇で返すことになるわよ?」
「うーん、永琳は確かに色々教えてくれたけど……でも、アリスのほうがお世話になってるし。それに、アリスは私のせいで魔理沙に怒られたんでしょ? なら、私にも魔理沙に借りがあるわ」
「むう……」

そう言われると反論に困るが。

「心配するな。前にも言ったと思うが、主犯は私だけだ。お前たちの名前は口が裂けても出さない。それでいいだろ?」
「……あなたはすぐ嘘をつくから信用できないのよ」
「おいおい、それはお互い様だろ? 万象展の念写をしてくる約束破ったのはどこのどいつだ?」
「……」

反論したいが……今回ばかりは立場が悪すぎて反論が出来なかった。

「おっ! そうだ! なんだ、簡単に忍び込める方法があったじゃないか!」

魔理沙がこいつは名案だ、といった風に手を打った。

「……なによ。ちゃんとした手なんでしょうね」
「ふっふっふっ。不幸中の幸いだったな、アリス。思いがけない人材を連れてきてくれたじゃないか、そこに」

不気味な笑い声と共に、メディスンを指差す魔理沙。
……また、何かろくでもないことを思いついたのだろう。メディスンに何か危機が迫ったら、全力で守ってやらなくては。
そう心に決め、アリスはぬるくなった紅茶を喉に流し込んだ。







月の光は、永遠亭の概観を一変させていた。
門や屋根が落とす影は黒々と、何かを潜ませるような恐ろしさを含んでいた。
あれほどあった人の圧迫感と喧騒は、嘘のように消失している。リーリーというさやかな虫の声が草むらから響くのみだった。

門の前の両脇には小さなかがり火が焚かれ、その前に棍棒らしき長い得物を持った兎が立っていた。
永遠亭は、普段はこういった警備はつけない。万象展中は警備を増強すると言っていた慧音の話は真だった。

――左だ。

魔理沙は微かな声で告げた。草むらを音を立てないように進んでいく。
その後ろを、アリスとメディスンが続いていく。門の前にいる兎が、かがり火の揺らめきでこちらを向いて睨んでいるように見えた。

竹林の中から、永遠亭の高い塀を望む。……高すぎて、中の様子はうかがい知れない。
しかし、大体の地理的位置は頭の中に叩き込んである。広い庭、池、それを挟んで向こう側が屋敷の本殿となっているはずだ。そして、蓬莱の玉の枝が展示してある部屋の位置も大体把握してあった。

塀の角を曲がると、屋台街が見えた。
誰もいない。当然なのだが、そのことがひどく奇妙に思える。あれだけ騒がしかった屋台街は死人の町だった。すでに放棄され、うち捨てられた街の残骸のように見えた。

――誰か来た!

先に行く魔理沙がさっと竹と草の中に身を隠す。アリスとメディスンもそれに倣う。
屋台の間から、ぼんやりと明かりが見えた。左右に揺れながら、少しずつ近づいてくる。巡回中の兎だった。ちょうちんを枝にぶら下げて、きょろきょろしながらこちらに歩いてくる。
そのまま、三人には気付かずに横を通り過ぎていく。ちょうちんの明かりが兎の陰になって、あたりは急激に暗くなった。

――よし、行くか。

魔理沙の声に合わせ、屋台の裏側を油断なく進んでいく。ミスティアの鰻屋が途中にあった。屋台の設営のときにはお世話になった。アリスはミスティアの鰻を毎日買い続けているが、実はそろそろ飽きていたりする。

魔理沙が一つの屋台の間に身体を滑り込ませる。屋台街の通りの左右を見渡し、さっとその中に身を躍らせた。道を横切り、永遠亭の塀側の屋台の裏側へと移動をした。
無事にたどり着くと、早く来い、とアリスとメディスンに手招きする。二人も注意深く通りを探ると、幾分かぎこちない足取りで魔理沙の所まで走り抜けた。

永遠亭の塀まで達すると、魔理沙は箒にまたがった。アリスとメディスンは、誰か来ないか屋台の間から見張る。それを見届けた後、魔理沙は少しずつ上昇を始めた。塀の向こう側が見えるくらいまで昇った後、顔半分だけを出して中の様子を窺った。
……警備の兎が何羽かいる。万象展が行われている部屋を中心に、渡り廊下の辺りにちょうちんの明かりが見えた。

――ここから行くのはまずいな。もっと裏から回ろう。

二人にそう言うと、魔理沙は屋台街の裏を通って永遠亭の外壁を伝っていった。

永遠亭の南側、つまり玄関と屋敷を挟んだ反対側に到達すると、魔理沙は再び箒にまたがった。

――よし、ここから行くか。

合図を出し、魔理沙は塀を飛び越える。
二人もその後に続く。そして、そのまま永遠亭の屋根の上を伝って、目的の部屋を目指した。
作戦らしい作戦はあまり考えなかったが、屋根を通って蓬莱の玉の枝の部屋まで素通りするというのは成功らしかった。さすがに、屋根の上まで警備がいることはないようだった。

魔理沙は、アリスとメディスンが記憶を頼りに描いた地図を広げる。
……現在位置からすると、万象展の会場に使われている座敷にはまだ到達していないようだった。それほど、永遠亭は広い。
三人は屋根を滑るように移動を開始する。とりあえず、玄関が見えるまで飛んでみるつもりだった。

やがて、屋根が途切れた。魔理沙が下を覗き込むと、ちょうちん片手に警備している兎の頭が見えた。
どうやら、ここが玄関らしい。ということは、ここから地図が役に立ってくる。
目指すべき蓬莱の玉の枝が展示されている部屋は、展示室の一番右奥である。三人は大体の見当をつけ、そちらに飛び先を変えた。

蓬莱の玉の枝がある部屋辺りに到達し、魔理沙は下を覗き込む。……警備の兎が見える。他の部屋には警備はいない。つまり、あそこが蓬莱の玉の枝が展示してある部屋であるという明確な目印だった。なんとも分かりやすい。魔理沙の顔に笑みが浮かぶ。

――よし、メディスン。ここで一発頼んだぞ。
――ねぇ、本当にやるの?
――いまさら躊躇している場合か! さっさとやるんだよ!

魔理沙に背中を押され、メディスンは身体を屋根から乗り出す。警備の兎の頭が見える。
その頭に向かって、メディスンは、ごふぁぁぁぁぁぁ、と息を吐き出した。

「……? あ、ら、な、何?」

しばらくもしないうちに、警備の兎は昏倒した。棍棒がからからと音を立てて渡り廊下を転がって、下に落ちる。

――よし、よくやった。

兎が転がったのを確認した後、障子が開いて一羽の兎が部屋の中から出てきた。

「何、どうしたの? あら!? ちょっと、どうしたのよ!」

――よし、やれメディスン!

またもやメディスンは、新しく出てきた兎の頭に向かって、ごふぁぁぁぁぁぁ、と息を吐き出した。

「? は、はれ?」

どさっ、という音と共に兎の身体が倒れ込む。
これで二人目。
しかし、魔理沙は油断しない。蓬莱の玉の枝の部屋には、警備が二人いるということだった。つまり、まだ中に一人いる可能性がある。いるとしたら、二人昏倒したのを見て警戒しているに違いない。
だが、そんな警戒など無意味であることを教えてやる。

――よし、メディスン。後は中だ。あの部屋の中めがけて、思いっきり吐き出してしまえ!
――う、うん。

メディスンは、ゆっくりと渡り廊下に降り立つ。

「! だ、誰、あなた!」

案の定、部屋の中にはもう一羽の兎がいた。

「ごめんね。ちょっと痺れるだけだから」

そう言うと、メディスンは、三度、ごふぁぁぁぁぁぁ、と息を部屋に向かって吐き出した。

「な、な、に、これ……」

最後の兎は昏倒した。メディスンは、背負っていた大量の鈴蘭の花が入ったバッグを下ろす。

――……もうだいじょうぶよー。

メディスンはアリスと魔理沙に呼びかける。二人は他に誰か来ないか警戒しながら、渡り廊下に降り立った。そして、素早く廊下で倒れている二羽の兎を部屋の中に入れ、障子を閉めた。

――よーし、よくやった。こんなに楽に忍び込めるとはな。

魔理沙はうれしそうにガラスケースの方に寄って行く。その中には、アリスが初日に見たままの姿で、蓬莱の玉の枝が据わっていた。

――なんだ、見てくれは大したことないんだな。
――私も最初はそう思ったわ。ただの木の実だってね。
――違いない。まあ、お宝はお宝だからな。さっさと頂くことにするぜ。

魔理沙は注意深くガラスケースを観察した。
何らかの術がかかっているのは間違いない。見たところ、ガラスケースに触ると警報が鳴る類のものだろう。

――どうするの? 解呪している暇はないんじゃない?

内部の廊下に続いているふすまを開け、様子を窺っているアリスが言った。

――確かにな。だが、この術には致命的な欠陥がある。
――致命的な欠陥?

術をかけたのは、恐らくあの八意永琳だろう。そんな失敗をするとは思えない。

――この術は、“ガラスケースに触ることで発動する”。なら、触らなきゃいいんじゃないか。

そう言うと、魔理沙は背負っていた袋の中から、一本何かを取り出した。
……小型のノコギリだった。

――ま、まさか、柵と台を切り取っていくつもり?
――それしかないだろう? 三人もいるんだ、担いで行くくらい、わけないだろ。

魔理沙はノコギリの歯を竹に当てて、ギコギコギコギコやり始めた。
けっこう音が響く。いつ、他の兎に気付かれるか、気が気ではない。まあ、来たら来たで、またメディスンの毒ガス攻撃を見舞うのだろうが。

五分後。

――……よし、いいぞ。二人とも端っこを持て。

無事に四つの竹の柱を切り取った魔理沙が、アリスとメディスンに指示を出す。
三人は魔理沙を先頭に、最初に入ってきた障子の方に神楽を担ぐように動き出した。

障子から、油断なく魔理沙は外に出る。
そして、置いてあった箒を器用に足で掴み、股に挟んで宙を浮いた。
二人もそれに倣って、バランスを保ったまま宙を浮く。

その時だった。

「誰か、そこにいるの?」

ちょうちんを持った巡回の兎が渡り廊下に、すっと姿を現した。

――まずい、メディスン毒ガスだ!
――うん!

すかさず、メディスンは背負っていた鈴蘭のバッグに手を回した。
手を回した。

「あっ!!」

ということは、いままで持っていた神楽のバランスは崩れるわけで。

ガッシャーーーン!!

盛大な音を立てて、ガラスは渡り廊下に砕け散った。

「ばかっ! んなことしたら倒れるに決まってるだろっ!」
「あなたたちっ!! そこで何してるのっ!!」

すかさず、警備の兎が駆け寄ってくる。ピーっ、ピーっ、と高い呼び笛を鳴らす。

「まずいっ! さっさとずらかるぞっ!」

魔理沙はガラスにまみれた蓬莱の玉の枝をかまわず掴み取ると、箒を片手に持ったまま上空に離脱した。

「早く、メディスンっ!」
「う、うんっ!」

アリスはメディスンを抱え、魔理沙の後を追った。
魔理沙は二人に構わず全速力で逃げているらしく、全く追いつけない。薄情すぎるとアリスは呆れ果てた。

後ろから兎が追ってくるのが小さく見える。
アリスだけなら逃げ切れるかもしれないが、メディスンは飛ぶ速度がやや遅い。ここは何か追撃を振り切る手段を講じなければ。

「よし、みんな行くわよ!」

アリスは召喚陣を幾重にも重ねて展開させた。現れたのは、アリスが所有している数十体の人形たち。その手には剣や槍、斧や弓矢、ありとあらゆる武器が握られている。

「戦操・ドールズウォー! さあ、みんな行きなさい!」

アリスの掛け声と共に、人形たちは永遠亭に向かって突撃していった。
同時に、アリスは反転して魔法の森をひたすら目指した。

剣戟の音が遠く聞こえてくる。アリスの放った人形たちは、一定時間が経てばアリスの自宅に強制転移するようになっている。やられても修理はいつでもできる。足止めにはもってこいだし、証拠も残らない。

「……ここまで来れば、大丈夫かしらね」

後ろを振り返ると、もうすでに永遠亭は見えなくなっていた。
魔法の森まで逃げ切れば、それで全てが終わる。まったく、最後の最後まで冷や汗ものだった。

「大丈夫? メディスン?」
「……」

メディスンはショックが抜け切らないのか、放心した表情をしていた。

「………………………………………………ぷっ」

と、思ったら急に噴き出し、

「あはははははははははははっ!」

大声で笑い出した。

「ど、どうしたの、メディスン?」
「すごいすごい! こんなにわくわくしたの、生まれて初めて! あははは!」
「……」
「ねぇねぇ、アリスもそうでしょ!? 忍び込んで盗み出して追いかけられて! 最後までドキドキしっぱなしだったわ! あはははははははっ!」
「……はぁ」

メディスンはおかしくてたまらないといった風に笑う。それに、アリスはため息をついた。まったく、こっちはそんな暇はなかったっての。

まあ、無事に蓬莱の玉の枝を盗み出すことが出来てよかった。魔理沙もこれで満足だろう。
二人は、少し太った三日月の輝く空を、霧雨邸に向けて飛び去っていった。





「すみません! しっかり警備していたはずだったのですが……!」

蓬莱の玉の枝特別展示室では、惨状が広がっていた。
切り取られた展示台、ぶちまけられたガラス。三人の昏倒している兎たち。
その場には四人の兎の警備員、そして主任警備員の鈴仙、万象展の監督者の永琳がいた。
起こってはならないことが、為すすべなく起こってしまったことで、鈴仙は永琳に平謝りしていた。

「……」

永琳の顔は平静を保っているように見える。
割られたガラスの一部を拾っては捨て、拾っては捨てを繰り返している。
警備員たちは、いつ永琳の怒りが爆発するか怯えるばかりだ。
なにしろ、我らが主の大切にしている秘宝が奪われてしまったのだから。

「ふむ……」

小さくうなずいた永琳は、五人の方を振り返った。
全員の目を見る。かわいそうなほど萎縮してしまっている。

「過ぎてしまったことはいいわ。もう取り返しのつかないことだから。……警備班には当然、懲罰を与えるのでそのつもりでいるように」

五人はうつむいた。懲罰は覚悟していた。しかし、それ以上に、簡単に盗難を許してしまった自らの力の無さを悔やんでいた。

「ま、そんなに、悩むことないわよ」
「……へ?」

鈴仙が間抜けな声をあげた。永琳の声が、あまりにも軽かったものだから。

「し、師匠? お、怒ってないんですか?」

恐る恐る聞いてみる。

「もちろん、怒ってるわよ。結果的には盗まれたんですもの。あなたたちが期待に応えてくれなかったことには腹が立ってるわ」

腕を組んで、ぷんぷんと怒っている様子を見せる永琳。しかし、長いこと弟子をやっている鈴仙には、それが本気で怒っているわけではないことが分かっていた。

「ええと……確か一ヶ月前だったわね。対M用の警備マニュアルをあなたに渡したのは」
「ああ……はい、そのくらいだったと思います」
「あれね、あなたには教えてなかったけど、裏マニュアルがあったのよ」
「は? 裏、マニュアルですか?」

初めて聞いた単語に、鈴仙は戸惑うばかり。

「初めて聞いて当然よ。話してなかったもの」
「ど、どうしてそんな大切なことを教えてくれなかったんですか!?」

さすがに、警備主任担当者の鈴仙にとってみれば裏切られたも同然の仕打ちだった。

「敵を騙すには、まず味方から。それを実践したまでよ。もし、あなたに裏マニュアルのことを話していたら、警備が身に入らなかったかもしれないからね」
「え……どういうことですか?」
「よーく考えてみなさい。なぜ、話すと身に入らなくなるのか。それが分かれば、裏マニュアルの中身も自ずと分かるはずよ……」

鈴仙は頭をひねった。

「? ……………………………………………………あっ! そうかっ!」

そして、ひらめいた。主の宝を奪われて、従者の永琳がなぜこんなにも余裕ぶっていられるのか。それが一番のヒントとなっていたのだ。





アリスとメディスンは、明かりの漏れる霧雨邸に戻ってきた。
やはり、もうすでに魔理沙は帰ってきているらしい。

「……まったく、あいつは自分勝手も甚だしいわね。お宝さえ奪えば、私たちはどうなってもいいと思っているのね」
「そうねぇ、でも無事だったんだからいいんじゃない?」

メディスンはまったく怒っていないようだったが、アリスは今回でさすがに懲りた。もう泥棒まがいのことはしないようにしようと心に決めていた。

二人は霧雨邸の玄関前に降り立つ。そして、ドアをノックして中に呼びかけた。

「魔理沙ー。いるんでしょー。開けなさいよー」

十秒ほどして中から声が聞こえた。

『……アリスか?』
「そうよ。さっさと開けなさいよ」
『アリスという証明をしろ。ドアを開けるのはそれからだ』
「……はあ?」

……なんか、この展開は前にもあったような……。

「なによ、それは? 声を聞けば十分でしょ? それに、無事に帰ってきたのにまだひどい仕打ちをするわけ?」
『……どうやって帰ってきた?』
「メディスンを抱えて、人形を放って、追っ手を振り切ってきたのよ。もう追ってくる兎はいないわよ」
『……よし、いいだろう。最後に一つ確認しろ』

アリスは後ろを振り返って、誰かつけてきていないか確認した。

『お前の後ろに誰かいないか? つけられたりしてないか?』
「……なにもいないから、安心して開けなさいよ」
『……そうか、よし入れ』

ようやく、わずかにドアが開き、中から覗き込むように黒いグラサンが現れた。

「……」
「……」

アリスとメディスンは動きを止めた。なぜなら、そこに途方もなく変なやつがいたから。
黒いサングラスに顔にぐるぐる巻きの包帯。

月○仮面の再臨だった。





「つまり、あの蓬莱の玉の枝は偽物だったってことですね?」

鈴仙は答え合わせを求めるように永琳の顔を見た。

「ふむ、どうしてそう思うのかしら?」
「私が、さっき盗まれたものが偽物だと知っていたら、警備が身に入らなくなるのは当然です。盗まれても痛くも痒くもありませんから」
「ふむふむ」
「それに、師匠は警備のローテーションは日勤と夜勤に固定にするように私に指示しました。ですから、万象展が終わった後すぐにこの部屋の警備につく二名に、本物から偽物にすりかえるように隠密で指示を出しておいたんです。盗難の被害に遭う確率が高いのは、万象展が終わってからですからね。Mも、前回は夜中に侵入してきました。今回もそれを想定していたというわけです」

それに、お客に偽物を見せるわけにはいかない。その後なら、いくらでも偽物にすりかえられる。

「どうですか? 当たっていると思いますけど」
「ふむ、いいでしょう。九十点」
「え、百点じゃないんですか?」
「当たり前よ。あなたの答えは及第点よ。百点はさらにその上を行ってこそ貰えるものだからね」

残念でした、と永琳は笑う。

「警備っていうのは、盗まれる前に犯人を取り押さえるためにいるのよ。それが出来るのならば一番いい。今回は盗まれたけどね。あなたたちには、盗まれる前に仕事をしてほしかったわ」
「ああ……そうですね、すみません」
「私が偽物にすりかえたのは保険なのよ。あなたの答えには、“警備の前提がある”という意識がほしかったわね。それがあれば百点だったわ」

だが、本音では、永琳は今回も盗まれるだろうと考えていた。それを話してしまうと鈴仙の意欲が低下してしまう。展示物は、蓬莱の玉の枝だけではない。他にもたくさんあるのだから。

「さて、そろそろ後片付けしましょうか。明日も展示をしなきゃならないしね」
「はい、分かりました!」

鈴仙は元気のいい返事をし、部下の兎たちに指示を出し始めた。

「……」

永琳はぶちまけられたガラスの破片をひとつ摘み上げる。
それを指先でもてあそびながら、いろいろな角度で見つめた。

「ふっ、……ふふっ……」

そして、何かを思い出したかのように薄く笑った。





「……」
「……」
「……」

アリスとメディスンは、同じソファーに座っている。その顔には、疑問と困惑。
二人は、例の月○仮面と向かい合っていた。

「……で? なんで、あなたはまた、そんな珍妙な格好をしているのかしら?」

長い沈黙を破ったのは、アリスだった。
さすがに、これ以上黙っていられなかった。

「……」

月○仮面、魔理沙は迷っているようだった。
言うべきか、言わざるべきか、腕を組み、頭を捻りながら、答えを探そうとしているかのようだった。

「お前たちを信用している。……誰にも言わないな?」
「……言わないから、さっさと言いなさいよ」

アリスの言葉を聞いても、魔理沙はまだ躊躇っているようだった。
……それほどまでに重大なことなのか。アリスとメディスンは知らずに緊張していた。

「……私にも、どうしたらいいのか分からない。だから、お前らの知恵を貸してくれ」

そう言って、魔理沙はゆっくりと、ゆっくりと包帯を巻き取り始めた。

「……」
「……」
「……」

「「ぎゃははははははははははははははははははははははははははははははっ!!」」

アリスとメディスンは大声で笑った。強烈だった。こらえる暇すら与えられなかった。

「笑うなっ!! 笑うんじゃないっ!! 私だってこうなりたくはなかったっ!!」

そこには、ハゲがいた。
ツルッパゲだった。
草木も生えない不毛の大地のように。
天井の明かりを反射させ、眩しく輝く、一つのハゲがそこにあった。

「ああっ! だから、言いたくなかったんだっ!! いいか、これは永琳のやつに嵌められたんだ! 握っていた蓬莱の玉の枝が急に溶け出して! それで、みるみるうちに私の髪は抜けていったんだ! こら! お前ら笑うんじゃない! もしかしたら、お前らがこうなったかもしれないんだからな!」

アリスとメディスンは、ソファーから転げ落ちても、まだ笑っていた。完全にツボに入っていた。ジャストフィットだった。接着剤で引っ付けられたように、笑いのツボはびくとも動きはしなかった。


「ちっくしょー!! もう絶対あんなところに盗みになんか入らんからなー!!」


深夜の魔法の森に、ハゲの咆哮が木霊した。


















































◇ ◇ ◇



木の葉はすっかり落ち果てて、日に日に寒さを増している。
吐く息はかすかに白く染まり、気温の低さを物語る。
幻想郷の冬は厳しい。それは妖怪にとってもつらい季節。
冬支度をしなければ、春を迎えられないこともある。それは、アリスも例外ではない。

「……ふう……寒くなってきたわね」

妖怪は気温の変化に鈍感だ。けれど、寒くなってきたというのは分かる。
厳寒の季節になれば、妖怪といえどもマフラーは必須だ。タンスのどこにしまったか考えを巡らしながら、アリスはある一軒家を目指していた。

それは、魔法の森の外れに立っている。アリスの家から十分もあればつくところ。
丸太を組み合わせて造られた、可愛らしいログハウス。一週間ほど前に完成したばかりの新築だ。

アリスは、その家を視界に収めた。
あの娘はちゃんとやっているだろうか。期待と不安が胸に浮かぶ。
玄関の前に降り立つと、ドアには“OPEN”と書かれた木彫りの掛札が目に入る。ちゃんと使っているようで安心した。
アリスはドアを開ける。カラカラとベルが鳴り、中の住人に来客を告げた。

「いらっしゃいませー! あ、アリス! いらっしゃい!」
「こんにちは、メディスン。調子はどう?」

カウンターの向こう側にいたメディスンは、身を乗り出してアリスを迎えた。
中は狭いが暖かかった。両側にはアリスの腰ほどの棚が置かれ、そこに無数の瓶が陳列されている。

「今日は三人お客さんが来てくれたわ! みんな喜んで買って行ってくれたわよ!」
「そう、よかったわね」

メディスンは今、香水屋として商売を始めた。
屋台での経験で商売に興味を持ち、新しく店を持ちたいと言い出したのだ。

スポンサーは、紅魔館が受け持ってくれた。メディスンが店を始めると聞き、このログハウスを立ててくれたのだ。香水の材料費、研究費等を全面的に工面してくれるらしい。まあ、あの屋敷では、この程度は、はした金、趣味に過ぎないとのこと。
その代わり、香水を販売して出た利益の何割かと、新作の香水をいち早く届けることが条件だった。この理屈は、紅魔館の知識人であるパチュリー・ノーレッジが提案したらしい。

また、新作の香水研究には、永遠亭の永琳が協力してくれる。
メディスンが住んでいる鈴蘭畑の鈴蘭を研究し、新しい香水を日夜開発中だ。よっぽど暇らしい。研究費もおいしいらしい。
メディスンは、永琳と共に香水の製法等を勉強中だ。今では、屋台で売っていた最も基本的な香水を、すでに自分で作れるようになっている。
ここに陳列されている香水は、ほとんどがメディスン作だ。香水作りが面白くてたまらないらしく、必要以上に作ってしまい、棚が一個増えたという。

「今日は永遠亭に行かないの?」
「うん、今日は自分で研究してみることにしたの。永琳も、毒を操れるメディスンが作ったら面白い香水が作れるかもしれないって言ってたしね」
「なるほどね。頑張って。出来たら、真っ先に買いに来るわ」
「うん、ありがとう!」

嬉しそうにメディスンは笑う。……あの時、屋台裏の竹林で向けられた視線が嘘のようだ。
メディスンは、今はアリスの友達として信頼をおいてくれている。それが、アリスにはたまらなく嬉しかった。

「あ、そうそう、ちょっと面白い報告があるわよ」
「えっ、なになに?」
「魔理沙よ魔理沙。あの尼さんね、髪の毛生えたみたいよ」
「えっ、本当!?」

あれからハゲになった魔理沙は、パパラッチ天狗記者にすっぱ抜かれる前に永遠亭を訪れ、土下座して謝ったらしい。
兎たちや永琳、永遠亭の主に散々いじられまくり、ようやく毛生え薬を作ってもらえたのだそうだ。

「うわー、見に行ってみたい! ちゃんと生えてるのかなー?」
「今は肩のへんまでくらいだけどね、人に見せられるくらいには伸びてたわよ」
「あ、アリスは見てきたんだ。いいなー、私も行きたいー」
「あなたは店番があるでしょうに。休みのときに行けばいいわ。それに、私はお客さんよ。いつものやつを頼むわね」
「あ、まいどありー!」

メディスンはカウンターから飛び降り、棚の中から瓶を五本詰めにして袋に入れた。

「はい、どうぞ! 作りすぎて余っているから、いつもの二割引ね!」
「あら、いい時に来たわね。……はい、お釣りはいらないわ」
「ありがとう! また新しいのが入ったら知らせるねー!」
「ええ、頼むわ。また遊びにいらっしゃい。じゃあね」

手を振るメディスンに笑顔を向け、アリスはログハウスを後にした。

「はあ……寒い……」

外に出ると、寒さがしみる。早く帰って、温かい紅茶でも飲もう。
アリスは地を蹴って、家を目指した。振り返ると、可愛い香水屋がより小さくなっていく。

「……がんばってね、メディスン」

これから、メディスンは香水を売る、という行為を通して様々なことを学ぶだろう。
中には辛いこともあると思う。
そんな時、自分が相談の相手になってあげられたら、どんなにいいか。

そんなことに思いを馳せ、アリスは魔法の森の上を飛び去っていった。



〜 終 〜



戻る