「あなたは負けず嫌いね」

私は、端的にそう言った。

「そんなもん、私と二、三回顔を合わせりゃ、すぐにわかることだろうが。占いじゃないだろ」
「性格診断も兼ねてるのよ。むしろ、そっちがメインね」

揚げ足を取ってきたので、軽くいなす。
この女の子とのつきあい方に、私はようやく慣れてきたところだ。

「それに、不器用。柔軟な対応が苦手。なんでも強引に自分のやり方で通そうとする」
「それも診断か?」
「そうよ? 当たってる?」

下に向いていた視線を上げ、女の子の目を見る。

「お前が診断だって言うんなら、そうなんだろうよ。だが私から言わせれば、お前が今やってるのは、今までの私の行動パターンの客観的分析結果だな」
「それは、当たっていると捉えていいのね?」

女の子はひねくれた笑顔を浮かべ、肩をすくめた。
それに微笑みを向け、再び下に視線を向ける。
私よりも若干指が丸く、柔らかな小さな両手の平が、青い空に輝いている太陽の光を受け止めていた。

魔法の森は、今日は少しだけ湿度が低い。
梅雨の合間、本格的な夏に向かうほんのわずかな季節の隙間。
これからどんどん暑くなる。外に出るのが億劫になるくらいに。
だから、こうして外でお茶を楽しむのも、しばらくお預けになるかもしれないのだ。

そよ風が揺らす木の葉の音と、アッサムティーのかぐわしい匂い。
お気に入りの白いテーブルと白い椅子。そこに、この不遜だけれども憎めない女の子を呼んで、私は手相遊びに興じていた。

「でも、なんでお前、手相なんかに興味を持ったんだよ。占いはもっぱらタロットだったろ?」
「あら、持っちゃ悪いかしら? 魔法使いは、探求の徒。知的興味を枯渇させたら死んでいるのと変わらないのよ」
「まあ、そうだけどな……おい、さっきから手を揉んでいるのは、なんか手相に意味があるのか?」

怪訝そうに、女の子は訊いてきた。

「あるわよ? 手相とは、手のひらに走っている線を見るのではない。手を総じて見るから手相なのよ。手総とも言えるかしらね」
「本当かよ……そんなの聞いたこともないぞ」
「もちろんよ。私のオリジナルだからね」

女の子は軽くのけぞった。

「お前、手相を始めて一ヶ月とか言ってなかったか? 先人の知恵をほぼ無視して、それでよく探求の徒とか言えたもんだな」
「先人の知恵は尊重しているわ。でも、私は手のひらの線だけで占いをするというのは視野が狭いと思っただけ。ただでさえ手のひらだけで、その人を知ろうとする試みだもの。情報は多いに越したことはないでしょ?」
「……そりゃ、そうだがな」
「でも、私たちがするのは、無から有を作り出すことではないわ。それは、神のする仕事。私たちにできるのは、発見と発明。すでにあったものを見つけ、新しいものを生み出すこと。神ではない私は、偉大なる先人が積み上げてきたものを決してないがしろにしているわけではない。だから、私の考える手相に疑問が生じたら、まず当たるのは先人の文献でしょうね」

女の子は、なるほどな、と言って頷いた。
やっぱり、この子は単純だ。猪突猛進とも言う。
自分のやり方を突き詰めて突き詰めて、間違っていると気づいたらようやく方向を変える。
自分が納得できるまで諦めないのだ。

自分を、信じる。自分の足で、道を作る。
私とは、正反対の生き方だ。
私はとても弱いから、占いで運勢を調べ、保険をいっぱいかけて初めて前へ進める。
とりあえずやってみて失敗をするなんて、かっこ悪くて仕方ない。

でも、この女の子は失敗すらも受け入れる。
そんな、広くて寛容な心。純真でおおざっぱな心。
私たちは同業者ということもあったけれど、第一印象はお互いに最悪だったのではないか。

「で? 手を揉みほぐしてわかったことは何だよ?」

せっかちげに、女の子は結果を催促してきた。
私は、心の中でおかしそうに笑う。

「あなたは、素直ね。でも、それを認めない。無理に斜に構えてるとでも言うのかしら? 大人になりたくて無理している子供みたいね」
「なんだよ、人を痛い子供みたいに言うなよな」
「あなたは、まだ思春期まっただ中だと思うのだけれど。でも、素直なのはいいことだわ。人が豊かに生きていくためには、素直になるのが一番なのだから」
「妖怪様は違うって言うのか?」
「私たちは、存在しているだけで満足な生き物だからね。人間とは必要としているものが違うのよ」
「でも、お前は知識欲があるじゃないか」
「ああ、そうね。ということは、魔法使いという妖怪は、知識がないと死ぬ動物なのかもしれないわ」

はん、と女の子はバカにしたように鼻を鳴らす。

「あなたも魔法使いになる? 捨食を教えてあげようかしら?」
「嫌だね。人間には、タイムリミットがあるからおもしろいんだ。それに、仮に捨食をするにしても、自分で至る。お前なんかに教えてもらわんぜ」
「それもそれでいいわ。あなたの好きにね」

私が笑って受け流すと、おもしろくなさそうに口をとがらせた。
素直なのに素直じゃない。このひねくれた性格を実感するのに、私は随分とかかった。
たぶん、私でなくとも、この子を理解するのは難しいだろう。要するに、変わり者なのだ。
でも、一回掴んでしまえば、とてもおもしろい。気まぐれな子猫が愛らしく思えるように、と言ったら、この子はどんな反応をするだろうか。

「あ〜、もういいや。紅茶が冷める。次は霊夢にでもやってくれ」
「あら、優しいのね。気にしてくれたの?」
「うまいものはうまいときに頂く。常識だろ? お前は、ぬるい紅茶が好きなのか?」
「それもそれでいいと思うけど。本当においしい時なんて、人によって違うものよ」
「私は、熱い紅茶が好きなんだ」

そんなことを言って、ティーカップに恐る恐る口を付ける。
……本当は、熱いものが少し苦手なのだ。本当に、おもしろくて、愛らしい。

私も、彼女にならってティーカップを傾ける。
そして、あらためて触った手の感触を思い出した。

ちゃんと切られているけど曲線を描いていない爪。
水仕事で荒れ、手入れしているけど薬が合っていないと思われる手。
たくさんの火傷の跡。

彼女の手は、どうしようもなく、素直で、不器用だった。

人間の姿をしている生き物は、手を一番よく使う。
だから、手の様子を見れば、その人となりがわかるのではないかと、私は最近思った。

手相を研究してみることにしたのは、それが理由だ。
彼女は、私の被検者第一号だった。

私の推論は、当たっているようで当たっていなかった。
なんだか、私の彼女の主観的印象を多分に含んでいるような気がしたから。

今度は、私の知らない人の手相を見てみよう。
発見が得られるかもしれないし、得られないかもしれない。

でも、きっと無駄にはならないだろう。
世の中に、無駄なものなど存在しないのだから。

穏やかな陽気の中、ゆっくりと時間が過ぎていく。

私と女の子は、他愛のない話に花を咲かせ続けた。


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